不動産売却の契約解除で手付金は返還される?買主都合の場合の注意点を解説


不動産売却の契約を結んだものの、買主の都合で急に契約が解除された場合、手付金はどうなるのでしょうか。売主としては「手付金は返還しなくて良いのか」「損害賠償はできるのか」といった疑問や不安が生じやすいものです。本記事では、買主都合での契約解除における手付金の扱いや、関係する法律知識、注意すべき契約書上のポイントまで、分かりやすく解説します。知っておくことで損をしないために、ぜひ最後までご覧ください。

買主都合での契約解除における手付金放棄の意味と法的根拠

買主の都合で不動産売買契約を解除する場合、買主は「手付金を放棄する」ことにより契約の解除が可能となります。この制度は民法第557条に明記されており、買主が手付を放棄し、売主がその倍額を「現実に提供」すれば、契約解除が認められる仕組みです。ただし、相手方が契約の履行に着手した後はこの制度を利用できません(民法第557条第1項)。

このような手付金を介した解除方法は「解約手付」と呼ばれます。民法では、特段の定めがない限り手付は解約手付として扱われるとされ、解約手付による解除が成立した場合には、当事者間で損害賠償請求が生じない点も大きな特徴です(同法第557条第2項)。

契約書には「解約手付」と「違約手付」の区別が記載されていないケースも多いため、売主としては手付金が解約手付として扱われているかを必ず確認することが重要です。解約手付であれば、買主の都合による解約でも放棄による解除が可能ですが、違約手付の場合は債務不履行に対する制裁として扱われ、性質が異なります。

用語内容備考
解約手付手付放棄(買主)または倍返し(売主)で契約解除可能民法第557条に規定
証約手付契約成立の証としての役割成立の証明に主眼
違約手付債務不履行に対する違約金的な役割違約時に没収または倍返し

「履行の着手」とは何か?解除可能なタイミングの見極めポイント

買主都合で売買契約を解除する際、売主の立場では「手付解除」が行える期間か否かを正しく判断することがとても重要です。この判断のカギとなるのが、「相手方が履行に着手しているかどうか」です。

行為主体具体的な行為履行の着手に該当するか
買主残代金支払いの手続きを完了する、住宅ローンの本契約を締結する多くの場合、該当する
売主所有権移転登記に必要な書類を準備・提出する、物件の引渡し準備を具体的に進める一般的に該当する
売主または買主単なる登記委任や書類準備等の準備的行為準備行為であり、該当しないことがある

たとえば、買主が残代金の支払い準備や住宅ローンの本契約など、契約上の義務を具体的に開始する行為は、「履行に着手した」と判断されることが多く、その時点以降は一方的な手付解除ができなくなります。これは民法上でも基本原則として定められており、実務上も広く認められています。具体例としては、金融機関への正式な融資申し込み完了や司法書士への登記書類の提出などです。さらに、契約書に「手付解除期日」を記載することで、解除可能な期限が明確になっていることが多く、たとえば入金後10日から2週間以内などの記載がされていることもありますので、契約書の条文を必ずご確認ください。

なお、単なる登記委任や資料提出の準備など、「履行の提供のための前提行為」にすぎない場合は、裁判所の判断によっては「履行の着手」とはされず、依然として手付解除ができるケースもあります。このように、何が「履行に着手」と判断されるかは行為の内容や進捗状況に応じて慎重に検討する必要があり、契約書に定義を明記するなどの対策がトラブル回避に有効です。

売主が注意すべき契約書上の条項と法的確認事項

売買契約書に記載されている「手付金」に関する条項は、売主にとって極めて重要です。まず、手付金が「解約手付」であるかどうかを正確に確認してください。解約手付であれば、買主が手付を放棄することで契約を解除でき、売主が解除したい場合には手付金の倍額を返還する必要があります(いわゆる「手付倍返し」)。

次に、手付金の額についても法令上の制限を理解しておくことが重要です。宅地建物取引業者が売主の場合、手付金の額は売買代金の20%を超えることは許されません。実務上は5~10%程度が相場として用いられることが多いとされています。

また、契約書に「住宅ローン特約」や「不可抗力条項(天変地異等)」が含まれているかどうかも、売主としては注意深く確認すべき点です。たとえば買主がローン審査をクリアできなかった場合の措置や、災害等で履行が困難になった場合の対応があらかじめ定められていることで、不要なトラブルを回避できます。これらの特約条項が、売主にとっても均衡の取れた内容であるか、見落としなく確認することが望ましいです。

以下に、売主が確認すべき主要な契約条項をまとめます。

確認項目 内容
手付金の種類 解約手付かどうか(解約条件や手付倍返しの可否)
手付金の額 宅建業者の場合は売買代金の20%以内、実務上は5~10%が相場
特約条項の有無 住宅ローン特約や不可抗力条項の内容とその影響

買主都合で契約解除となった場合に手付金以外で注意すべき法的ポイント

買主都合で売買契約が解除された場合、手付金の処理以外にも留意すべき法的・税務上の点があります。まず、原則として買主の都合による解除では、手付金を放棄することで契約解除ができ、損害賠償請求は困難とされます。

しかし、買主の都合の中でも「債務不履行」のように明らかな履行義務違反がある場合には、売主は債務不履行解除や違約金請求といった対応が可能となることがあります。そのため、契約書に「違約金条項」が含まれているかどうかは重要なポイントです。

さらに、解除後の税務処理も忘れてはいけません。売主が買主から手付金や違約金を受け取った場合、これらは「一時所得」として課税対象となります。 特に、仲介手数料など契約に伴い支出した費用については、一時所得の収入を得るために直接要した経費として控除が認められます。

以下、主な法的・税務上の留意点を表にまとめます。

項目内容留意点
損害賠償請求 買主の明確な履行義務違反がある場合には可能 契約解除が債務不履行に基づくかどうか契約書で確認
違約金条項 契約書に定めがある場合、売主は違約金請求が可能 違約金の額や計算方法が明確か確認が必要
税務処理 手付金・違約金は一時所得として課税対象 仲介手数料は必要経費として控除できる可能性あり

これらの点について、契約書の記載内容をしっかり確認しておくことが、万一の契約解除時に売主が損をしないために重要です。また、税務判断を含めた具体的対応は宅地建物取引士や税理士、不動産法務に詳しい専門家へのご相談をおすすめします。

まとめ

不動産売買契約における手付金には、解約手付や違約手付など複数の種類があり、買主都合で契約を解除する場合には、原則として手付金の放棄が条件となります。特に「履行の着手」前であれば、民法上の手続きに則って契約解除が可能ですが、履行着手後は違約金や他の法的措置が生じるおそれがあります。契約書をよく読み、手付金の種類や解除期限、特約内容を必ず確認しておきましょう。また、買主都合による解除時は、通常損害賠償請求が困難であり、解除後の税務上の扱いも見落とせません。事前に知識を得ておくことで、思わぬトラブルを防ぐことができますので、不明な点があれば早めにご相談ください。

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